「60代・70代から筋トレを始めるなら、設備の整ったスポーツジムに通うべきか、それとも自宅でやるべきか」かつての私も、まさにその岐路に立っていた。
71歳から本格的な肉体改造を決意し、72歳になった今も筋肉を育て続けている私が最終的に下した決断。それは、「退路を断つためにジムへ行くのではなく、一生続けるために自宅にこもる」という道であった。
世間を見渡せば、私たちシニア世代に向けられたアドバイスはどれも驚くほど優しい。「高齢者は無理をせず、水を入れたペットボトルで体操をしましょう」「ジムに行って、軽いマシンを動かしましょう」といった言葉ばかりが目につくものだ。
もちろん、健康維持のための運動としてそれを否定するつもりはない。だが、私自身は「まだそんな隠居じみたリハビリでお茶を濁すほど枯れてはいない」という男のプライドを、どうしても捨てきれなかったのである。
本気で分厚い胸板を取り戻し、引き締まったシルエットをデザインしたいと強く願った。過去に幾度となく味わった挫折を乗り越え、70代にして過去最高の肉体を手に入れられた最大の理由。
それは、自宅のわずか1〜2畳のスペースを「納戸ジム」へと作り替えたことにある。本記事では、私がなぜスポーツジムという選択肢を捨てたのかという理由から、最初に10kgのダンベルを買って手痛い失敗をした経験までを包み隠さず記録しておく。
買い直しを重ねる遠回りの末にたどり着いた結論、「60代・70代のホームジムに最低限必要な器具」のすべてをここに残したい。これから自宅で本気の鍛錬を始めようとしている同世代の同志にとって、この実践の記録が少しでも無駄な遠回りを防ぐ道標になれば嬉しい限りである。
目次
60代・70代の筋トレは「ジムか自宅か」?結論、ジムは辞めて自宅にこもれ
過去に何度もトレーニングの挫折を経験してきた私が、それでも筋トレを一生続けるために自らに課した絶対的なルールがある。それが「ジムには通わず、自宅を鍛錬の場にする」ということだ。
なぜシニア世代にとって自宅筋トレこそが最適解となったのか、私自身の経験からその理由を紐解いてみたいと思う。
「高い会費を払えば通うはず」という期待が挫折の引き金になる
スポーツジムに入会する際、当時の私は「毎月高い会費を払うのだから、元を取るために必ず通うはずだ」と自分自身に期待していた。しかし、この心理こそが大人にとっては諸刃の剣になりやすい。
生きていれば、外せない用事や仕事、あるいは体調不良によって、計画していたローテーションを休まざるを得ない日が必ずやってくる。その時、私の心にのしかかったのは「今日はトレーニングができなかった」という純粋な悔しさだけではなかった。
「高い月会費を1日分、ドブに捨ててしまった」という金銭的な後悔が、重くのしかかってきたのである。これが数日続くと、人間のモチベーションは面白いように底をついてしまうものだ。
「もう今月は会費の元が取れない」「どうでもいいや」という投げやりな感情に支配され、やがて「筋トレをやらないことの快適さ(楽さ)」へと逃げ込んでしまう。高い会費というプレッシャーは、継続の推進力になるどころか、一度歯車が狂った瞬間に「挫折への加速装置」へと変わってしまうと私は学んだ。
他人の手垢がついたマシンを待たず、「1〜2畳の納戸」を聖域にする
[ここに納戸ジム全景の写真を挿入]
ジム通いで挫折を繰り返した私を救った唯一の現実的な解決策が、「自宅の中にジムを作ること」であった。「自宅にそんな余裕のあるスペースはない」と思うかもしれないが、本気で探せば家の中のどこかに必ず隙間は見つかるものである。
使っていない部屋の片隅、廊下の奥、あるいはベッドの横でもいい。私の場合は、それが「納戸」であった。その気にさえなれば、わずか1〜2畳分のスペースで十分だったのだと実感している。
「ジムに行かないと、周りの目がないからサボってしまう」という声もよく耳にする。だが、私自身の経験から言えば、「他人の目や会費のプレッシャーがないと続けられない状態」は、裏を返せば「いつか必ず辞める理由になる」ということでもあった。
自宅の納戸に作ったジムには、マシンの順番待ちもなければ、マナーの悪い他人に気を遣うストレスもない。そこにあるのは、他人の手垢がついていないダンベルと、自分の汗だけで濡れているベンチだけである。
狭い1〜2畳の空間にこもり、誰にも干渉されず、ただひたすらに冷たい鉄の塊と向き合う。本気で自分を変えたいと願った70代の私にとって、これほど贅沢で、心から熱中できる時間は他にないと思っている。
【コスト比較】ジムの「入会金+会費2ヶ月分」で一生無料の城が手に入る
自宅にジムを作るにあたり、私が計算したコストの現実は極めてシンプルであった。必要なのは、背もたれの角度を変えられるインクラインベンチが1台と、ダンベルのセットだけである。最初はそれだけで十分、全身のシルエットをデザインすることができる。
- 一般的なスポーツジム:入会金1万円 + 月会費8千円×2ヶ月 = 約26,000円
- 私の自宅ジム(初期投資):インクラインベンチとダンベル一式 = 約2〜3万円
つまり、スポーツジムに入会してわずか2ヶ月通うだけの費用があれば、自宅に自分専用のジムを開設できてしまう計算になる。一度この「城」を作ってしまえば、それ以降の月会費は永遠に無料だ。
雨の日や極寒の日にわざわざ着替えて出かける移動コストもかからない。もし体調や都合で1ヶ月休んだとしても、再開するために再び入会金を払い直すようなペナルティも一切ないのである。
「いつでも、0秒で再開できる環境」を手に入れたことこそが、私が継続できた最大の勝因だと実感している。
シニアのホームジムに「最低限必要な器具」はこの3つだけでいい
自宅で本気で筋肉を育てようと決めたものの、最初から完璧な知識があったわけではない。私は最初に10kgのダンベルを買って失敗し、あとからプレートをバラで買い足してさらに遠回りをするという苦い経験をした。
その失敗から学んだ「最初からこうしておけばよかった」という結論は、以下の3つの器具を最初に揃えることである。
- ダンベル:「片手20kg × 2本(合計40kg)」の可変式セットからスタートする
- ベンチ:フラットベンチではなく、最初から「インクラインベンチ」を選ぶ
- 安全装備:「トレーニングベルト&グローブ」を必須の防具として揃える
なぜこの3つなのか。70代の肉体を安全に、かつ確実に変えるために私がたどり着いた理由を、失敗談とともに詳しく記録しておきたい。
【失敗談】最初に「10kgダンベル」を買って後悔した話——最初から「20kg×2本」を選べ
私が自宅トレーニングを始めるにあたって最初に購入したのは、「片手10kgまで」のダンベルセットであった。当時は「70代なのだから、まずはこれで十分だろう」と軽く考えていたのである。
しかし、トレーニングを始めるとすぐに、その考えが甘かったことに気づかされた。胸を鍛えるダンベルプレスには明らかに軽すぎ、背中を引くローイングでも効いている感覚が物足りない。
脚のトレーニングに至っては、負荷として成立しないほど軽すぎたのである。
プレートの「あと買い」は高くつく・合わない・面倒の三重苦
10kgの壁にぶつかった私は、あとから重いプレートだけを単品で追加購入することにした。ところが、ここで予想外の「三重苦」に直面することになる。
- 割高になる:プレートの単品買いは、最初からセットで買うよりも圧倒的に割高につく。
- 規格が合わない:メーカーが異なると、シャフトの穴の径がわずかに合わず、ガタつきが生じるものがある。
- 送料がかさむ:重い鉄の塊であるため、買い足すたびに送料がかかり、気づけば非常に高い買い物になっていた。
結局、私はあとから「片手20kgまでのダンベルセット(2本で合計40kg)」を丸ごと買い直すことになった。最初からこの40kgセットを選んでいれば、時間も資金も無駄にせず済んだのだと痛感している。
なお、ダンベルの重量表記は「片手で最大何kgまで組めるか」で記されている。「20kg×2本セット」とは、片方のダンベルを最大20kgまで調整できるものが2本、つまり合計40kg分のプレートが付属しているという意味である。
寄せ集めダンベルの罠。スタートポジションで膝に食い込むシャフトの激痛
[ここに膝の上にダンベルを構えたスタートポジションの写真を挿入]
プレートを買い足した「寄せ集めの可変式ダンベル」を使っていた頃、私を悩ませたもうひとつの問題が、スタートポジションでの痛みであった。バラで買ったプレートを組み合わせると、左右のシャフトやプレートのバランスが不均一になりやすい。
インクラインベンチでプレスを行う際、まずはベンチの左右に置いたダンベルを持ち上げ、一度「両膝の上」に乗せて体勢を整える。私の扱うセットが片方20kg超(両手で合計45kg)に達した頃、この膝の上にシャフトの先端が直に当たり、グリグリと食い込んで激しい痛みを感じるようになった。
しかし、膝が痛いからといって焦って後ろに倒れ込めば、肩や首を痛める重大な事故につながる。高重量のダンベルを扱う際、スタートポジションに着くまでは一瞬たりとも気が抜けないものだ。だからこそ、バランスが整った正規のセットを最初から使うべきなのだと学んだ。
種目別の「現実的な重量ゾーン」と、プレート交換のストレスを消す工夫
[ここに納戸に並ぶ主力器具の写真を挿入]
70代の私が実際に行っている、種目別の「現実的な重量ゾーン」の目安を挙げておく。
- ダンベルプレス(胸)/ローイング(背中):片手 15〜22.5kg 前後
- ダンベルフライ(胸):片手 12.5〜15kg 前後
- サイドレイズ/フロントレイズ(肩):片手 5〜7.5kg 前後
- アームカール(腕):片手 5〜10kg 前後
もちろん体格や経験によって個人差はあるが、「片手20kgまで組めるダンベルが2本」あれば、自宅で行うほぼすべての種目をカバーできることがお分かりいただけるだろう。逆に片手10kgまででは、大筋群である胸・背中・脚の成長に対してすぐに負荷が足りなくなり、トレーニングの熱量そのものが冷めてしまう。
世間の言う「優しい体操」は、私の求めるものではなかった。70代の筋肉もまた、冷たい鉄の塊にしか反応しないと私は信じている。さらに私の本音を言えば、トレーニングの合間にスクリューを回してプレートを付け替える作業は、正直に言ってかなり面倒であり、集中力が途切れる原因になる。
そのため現在の私は、重い種目用(20kg前後)、中間用、軽い種目用(5〜10kg)と、複数のダンベルセットをあらかじめ組んで床に並べ、プレート交換のストレスをゼロにしている。もちろん、最初から何セットも揃える必要はない。「まずは20kg×2本セット」からスタートし、必要になった段階で軽いセットを足すのが最も賢明なステップであると私は考えている。
フラットベンチではなく、自宅ジムの核に「インクラインベンチ」を据えた理由
ダンベルと並んで自宅ジムの心臓部となるのがトレーニングベンチだ。これも私の結論は明確で、背もたれが平らなだけのフラットベンチではなく、最初から角度調整ができる「インクラインベンチ」を選ぶべきだと決めている。
大胸筋の上部から肩まで、角度ひとつで種目の幅が劇的に広がる
[ここに納戸に置いたインクラインベンチの写真を挿入]
インクラインベンチを推す理由はシンプルだ。水平にすればフラットベンチとして使え、背もたれに角度をつければ「インクライン(斜め上向き)」の種目ができるため、1台でトレーニングのバリエーションが劇的に増えるからである。
私は自宅でチンニングスタンドを使ったディップス(大胸筋の下部を鍛える種目)も好んで行っている。だが、ディップスばかりをやり込んでいると、胸の下部ばかりが発達してしまい、全体のシルエットのバランスが崩れやすいことに気づいた。
そこで現在は、以下の3つを意図的に組み合わせている。
- インクライン・ダンベルプレス:大胸筋の上部〜全体
- フラット・ダンベルプレス:大胸筋の中部
- ディップス:大胸筋の下部
フラットから少し角度をつけるだけで、年齢とともに削げ落ちやすい「大胸筋の上部」や「肩(三角筋)」にピンポイントで刺激を入れることができる。たくましく厚みのある胸板を立体的にデザインする上で、このインクラインベンチは私の納戸ジムに欠かせない相棒となっている。
安物の「きしみ・ぐらつき」は禁物。中高年こそ剛性の高いベンチを選ぶ
ベンチ選びにおいて、私が何より重視したのは「安定感(剛性)」である。極端に安価なベンチは、重いダンベルを持って身を預けた際に「きしみ」や「ぐらつき」が生じやすいものだ。
合計40kg近い鉄の塊を顔や胸の上で支えている最中に、背もたれがガタつくことほど恐怖を感じる瞬間はない。私たち中高年にとって、トレーニング中の不安はそのまま怪我のリスクに直結してしまう。
多少値段が張ったとしても、背もたれがしっかりしていて微動だにしない「ガタつかないベンチ」を選ぶことこそが、最大の安全保障であると学んだのである。

