生存本能を目覚めさせた鮒寿司
生まれて初めて、鮒寿司を食べました。友人宅に遊びに行った折に、たまたま遭遇したのです。
頂き物だそうで、「これは皇室御用達の鮒寿司だ。もう二度と食べる機会の無いであろう希少品だから、心して食べる様に」と言われ、
高級そうな桐の箱から出して、恭しく勧められました。
一目見て、正直、苦手そうな雰囲気でした。それでも好奇心に負け、「ほんの少しだけ」と、1センチ四方ほどの極小サイズに切ってもらい、
その、何とも言えない形状の物体を、恐る恐る口に入れたのです。
発酵と腐敗の境界線
.. が、舌の上に乗せた瞬間、明確な拒絶反応が起こりました。
強烈な臭気と異様な食感。それでも吐き出すわけにもいかず、すぐに飲み込もうとしたのですが、
今度は喉が完全に閉じてしまい、何としても飲み込めません。
わずかに残っていた「動物としての本能」が、これは食べてはいけない物だ、腐ったものだ、毒物だ、死ぬぞ.. と、必死に叫んでいるようでした。
数十秒ほど飲み込もうと苦闘しましたが、ついに諦めました。あれは、私にとって初めての「生命の危機としての食体験」でした。
腐敗と発酵は同じもので、人間にとって有用なものを発酵、有害なものを腐敗と呼んでいるだけだ.. そんな話を聞いたことがあります。
食べておいしければ発酵、まずければ腐敗。私にとって、あの物体は間違いなく「腐敗」でした。
おそらく死ぬまで忘れない、強烈な体験でした。

