まだまだ行けるぞ 70代

寂れた路地にある怪しい店

Horumon

ホルモン焼きの思い出

昨晩、焼肉屋で久しぶりにホルモン焼きを食べました。

ホルモンとは、たいていの場合「テッチャン」牛の大腸のことです。白くて、ミルクの味のする脂の塊、独特の存在感を持った部位。

ホルモン焼きを口にすると、決まって子供の頃の記憶が蘇ってきます。

中学生の頃、駅の商店街の一角に、飲み屋が並ぶ細い路地がありました。昼間は寂れきっているのに、夜になるとそこだけが別の顔を持つ場所。


ネオンと電光看板がつくり出す怪しい光と影。並んだドアは、どれもが異世界への入り口のように見えました。

その中の一軒に、ひときわ強烈な存在感を放つ店がありました。赤い電球に囲まれた、縦長の大きな看板。

そこに浮かび上がる「ホルモン焼き」の文字。

ホルモン焼き屋は異世界の入り口だった

ホルモン焼きって、いったい何なのだろう?

普通の肉とも内臓とも違う、内分泌の「ホルモン」という響きが、妙に怪しく聞こえていました。まだ踏み込んではいけない“大人の領域”にある食べ物。

暗闇から現れた魑魅魍魎たちが、赤い照明の下、薄暗いテーブルにずらりと並んでいる。なぜだかわかりませんが、当時の私はそんなイメージを勝手に膨らませていました。

バロウズの『裸のランチ』に出てくるような、異形のものが蠢く奇怪な酒場。

子供と大人の世界を隔てる、見えない境界線が、そこには確かに存在していたのです。


禁断の食べ物、ホルモン焼き

今思えば、ずいぶん純真でしたね。昔の子供は、本当に何も知らなかった。

それはそれで、いい時代でした。

大人になるのは、どこか寂しい。けれど、酒が飲めるのは、やっぱり幸せです。