図書室で見つけた「井戸の中の蛙」
中学生の頃、昼休みには一人で図書室に行き、書棚を物色するのが楽しみのひとつでした。図書室はひんやりと静かで、本の匂いも好きでした。
ある日、奥の書棚の隅に、ちょっと変わった本を見つけました。その棚はいつも見ていたはずなのに、なぜかその本の存在に気づかなかったのです。
その本は鮮やかなコバルトブルーの装丁で、手に取るとずっしりと重く、そして何より茶色のインクで文字が印刷されていたのです。
著者は、アーネスト・T・シートン。全五巻で、題名は『シートンの動物記』でした。
図書室のお姉さんに聞くと、ちゃんと知っていて「あら、よく見つけたわね。その本はシートン動物記の初版本で、かなり珍しいのよ」と教えてくれました。
古い割にはとてもきれいな状態で、何か特別な書物を見つけたような気がして、私はすぐに借りて帰りました。
誰も知らないシートンの蛙
シートン動物記は以前にも読んだことがあり、収録されているタイトルはほとんど知っていましたが、その中にひとつだけ、初めて目にする短編がありました。
有名な長編『狼王ロボ』の巻に、まるで序章のように見開き一ページだけの短編が載っていたのです。
題名は『井戸の中の蛙』。本当に短い、短い物語でした。
「僕の考えでは」と、井戸の中の蛙が言った。
「大海の大きさは、大変誇張されているよ」
シートンの動物記より
『井戸の中の蛙』は、果たしてシートンが作った物語なのか。ずっと気になっていて、思い出すたびに調べたのですが、『シートン動物記』と『井の中の蛙』を結びつける記事には、一度も出会っていません。
それでも、あの短さで、あの洒落た余韻。簡潔でいて、どこか皮肉が効いていて、私はあの言い回しが大好きです。
シートンは、美術学校を卒業したプロの画家だったそうです。
挿絵もすべて、シートン自身の手によるものだと知ったとき、あの文章の静かな強さに、妙に納得したのを覚えています。

